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東京地方裁判所 昭和28年(ヨ)5487号 判決 1954年3月29日

東京都目黑区下目黑二丁目四百二十八番地

債權者

松沢幾太郎

右代理人辯護士

紅露昭

藤枝東治

同都同区上目黑二丁目千九百九十四番地

債務者

鏑木太郎

同都同区上目黑六丁目千二百三十八番地

阿久津四郎

同都同区上目黑四丁目二千百七十七番地

田中清吉

東京都目黑区下目黑三丁目六百六十番地

債務者

須田治

同都同区上目黑八丁目三百七十七番地

登坂源太郎

同都同区下目黑四丁目九百五十四番地

松沢亀次郎

同都同区中目黑二丁目七百七十六番地

中村冬三郎

同都同区中目黑二丁目五百六十一番地

板羽梅重郎

同都同区下目黑二丁目四百番地

須田喜作

同都同区上目黑五丁目二千三百五十八番地

高坂元吉

同都同区鷹番町三十六番地

池田米蔵

右十一名代理人辯護士

藤井幸

右当事者間の昭和二十八年(ヨ)第五、四八七号職務執行停止仮処分申請事件について、当裁判所は、債権者が債務者等のため共同して保証として金三百万円を供託することを条件として、つぎの通り判決する。

主文

(1)本案判決の確定に至るまで(但し、本案判決確定前その地位を退いた場合は、後任者が選挙されるまで)債務者鏑木太郎は、申請外目黒信用金庫(主たる事務所所在場所、東京都目黒区中目黒二丁目四七〇番地の理事兼理事長の職務を、債務者阿久津四郎、同田中清吉、同須田治、同登坂源太郎、同松沢亀次郎、同中村冬三郎及び同板羽梅重郎は、同金庫の理事の職務を、債務者須田喜作、同高坂元吉及び同池田米蔵は、同金庫の監事の職務を夫々執行してはならない。

(2)右期間中理事兼理事長の職務を行はしめるため、

東京都港区赤坂丹後町十一

松田令輔

を、理事の職務を行はしめるため、

東京都武蔵野市吉祥寺九三一

山田嘉穂

東京都杉並区成宗一ノ二八七

鵜沢晋

を、監事の職務を行はしめるため、

東京都新宿区大京町九番地六

塚本重賴

を夫々職務代行者に選任する。

(3)訴訟費用は債務者等の負担とする。

事実

債権者代理人は、「本案判決確定に至るまで、債務者鏑木太郎は、申請外目黒信用金庫の理事兼理事長の、債務者阿久津四郎、同田中清吉、同須田治、同登坂源太郎、同松沢亀次郎、同中村冬三郎及び同板羽梅重郎は、同金庫の理事の、債務者須田喜作、同高坂元吉及び同池田米蔵は、同金庫の監事の職務を夫々執行してはならない」旨の裁判を求め、その申請の理由として「

一、申請外目黒信用金庫は、中小企業等協同組合法による信用組合であつたが昭和二十八年六月一日組織を変更して、信用金庫法による信用金庫になつたものであり、債権者は、組合当時は組合員、金庫になつてからはその会員である。債務者鏑木太郎、同阿久津四郎、同田中清吉同須田治、同登坂源太郎、同松沢亀次郎同中村冬三郎及び同板羽梅重郎は、昭和二十八年五月三十一日、信用組合当時の総代会において選挙せられて就任した理事であり、うち債務者鏑木太郎はその後理事長に就任し、債務者須田喜作、同高坂元吉は、昭和二十七年五月三十一日信用組合当時の総代会において推薦されて就任した監事であり、債務者池田米蔵は、昭和二十八年五月二十三日信用組合当時の総代会において前任監事朝海行夫の後任者として推薦せられて就任した監事であり、組織変更後も引続き、それぞれ、その地位にあるものである。

二、右各総代会の総代は、昭和二十五年五月二十日選挙されたと称するものであるが、右総代の選挙は、つぎの理由により無効なものであるから、総代として役員の選挙に関与した者に総代たる資格がないことになる結果、債務者中理事たるものは、結局総代の資格のない者によつて総代会で選挙されたことになり、その選挙は、当然無効であり、又債務者中監事たるものは、推薦をうけたのみであつて選挙されたものというをえない。即ち申請外目黒信用組合は、

(1)目黒信用組合総代選挙規程に反し

(イ)各選挙区毎に選挙管理人補助者一名、選挙立会人二名を委嘱せず従つてその氏名を公告しなかつた。

(ロ)投票用紙の様式を定めなかつた。

(ハ)代理投票及び書面投票のための投票用紙並びに投票用封筒を準備しなかつた。

(ニ)各選挙区の定員を超過したとき必要な連記式記号投票のための用紙を準備しなかつた。

(ホ)無競争当選の決定の公告並びに当選者氏名の公告をしなかつた。

(ヘ)総代当選者に対し、当選通知をせず且つ当選者から当選承諾書を提出させていない。

(ト)立候補者が定員にみたない選挙区において、補充選挙によらずして総代を選挙した。選挙区は十八区に分れ、総代の定員は、上目黒一丁目二名同二丁目十三名同三丁目三名同四丁目七名同五丁目七名同六丁目四名同七丁目三名同八丁目六名駒場町一名中目黒一丁目八名同二丁目十名同三丁目及び同四丁目各四名下目黒一丁目二名同二丁目及び同三丁目各八名同四丁目七名三田三名となつており、立候補者数は、上目黒七丁目、下目黒一丁目同四丁目は夫々一名もなく、中目黒一丁目同三丁目は各三名三田は一名その他大同小異で、定員に充たない選挙区が多々あつたにもかかわらず、組合役員の依嘱のみによつて総代に就任せしめている。斯る場合には補充選挙により総代を選挙しなければ総代選挙規程に違反するものである。

(2)定款第三十六条第二項の規定によれば、総代は、選挙区毎にその選挙区の組合員の数に応じ、組合員の互選により選出された者の中から組合総会において選挙する定めになつているのに、前記五月二十日当選したと称する総代については総会における第二次選挙の手続が実施されていない。従つてこの手続を経ていない者には総代の資格がない。

(3)定款第三十六条第一項の規程によれば「総代の定数は百人とする」と定められている。右定員は、総代選挙規程第二条に基き、昭和二十五年五月三日理事会において、選挙区十八区に割当てられ、前記の通り決定されたにも拘らず、総代百四名が選挙されたとしたのは、定員の点において定款違反であつて、その選挙は無効である。

三、債務者等は、共同して三和銀行等より合計三百万円借り入れ、これを組合帳簿に記帳せず、利息は組合財産より支払い、或は情実により無担保貸付を行い、或は一部役員の利を図り、不必要に高額な敷金を支払い、預金者優遇に名をかりて組合の金を濫費し、或は総代会招集手続、決算書類承認手続につき定款の規定に従はない等理事者として不当な行為多く、これを放置するにおいては、目黒信用金庫のうける不利益は測り難いものであるので本件申請に及んだ。

」と述べ

債務者主張の答弁事実二の(2)の定款改正の事実については「

昭和二十五年五月十四日組合総会が開催されたことは認めるが、同総会においては、以下の理由により、定款変更の決議が成立していないから、債務者の主張は理由がない。即ち

(1)定款の変更には、総組合員の半数以上が出席して、その議決権の三分の二以上の多数による議決を要するのに、当日の出席者は五十人内外委任状も二百人以下であつて、総組合員千五百八十八名の過半数に達せず、議事に必要な定足数を欠いていたので、既に組合総会が成立していなかつたのである。

(2)仮りに総会が成立したとしても、決議が成立した事実はない。即ち特別決議の表決手続たる総組合員の半数以上の出席の有無、出席者の三分の二以上の多数の賛成がえられたか否かが議長によつて調査されていないので特別決議は成立していない。従つて定款の変更はない。

(3)仮りに債務者主張の如く定款の変更があつたとしても、選挙は告示又は通知から始まり、当選人の確定するまで、幾多の行為が連続的に行なはれるものであつて、一旦旧定款により選挙に着手した以上、これが終了するまで旧定款に従うべきであつて定款の改正規定に従うべきものではない。

」と述べ

以上いづれも理由がないとしても、総代の定員百名に対して百四名を選出したのであるからその中四名は総代たる資格がないものである。昭昭二十八年五月三十一日の総代会における理事の選挙の結果によれば、当選者のうち、最高得票者鏑木太郎は八十四票最下位得票者板羽梅重郎は四十三票、欠点者重盛秀蔵同田中開次の得票数は各々四十二票となつており、当選者のうち右板羽梅重郎を除くその他のものについては、右無資格者の投票の結果は、えいきようないが、右板羽梅重郎については次点者との差が一票であるから、右無資格者の投票は結果に影響があり、如何なる変化をおこすかわからぬものであるから右板羽梅重郎の当選は確定的でない。従つて右板羽梅重郎の当選は無効といわなければならない。

」と述べ

疏明として、疏甲第一乃至第六号証、第七号証の一乃至三、第八乃至第十六号証第十七号証の一、二第十八乃至第二十一号証を提出し、証人吉沢長太郎、同山下直、同押田孝、同石川喜左衛門及び同渋谷直治(第一乃至第三回)の各証言並びに債権者本人尋問の結果を援用し「疏乙第一号証の一乃至十七、第十号証並びに第十四号証の成立は認める。第三号証第七号証、第十一号証、第十二号証の一乃至二百五十二の成立を否認する。爾余の疏乙各号証の成立はしらない。」

と述べた。

債務者等代理人は「本件仮処分申請を却下する」との裁判を決め。

答弁として「

一、債権者主張の申請理由一のうち債務者須田喜作同高坂元吉が昭和二十七年五月三十一日総代会において推薦され監事に就任したとの点を除きその余の主張事実は認める。右債務者は同日の総代会において選挙されたものである。

二、債権者主張の申請理由二の事実について、債権者主張の総代会において昭和二十五年五月二十日選挙された総代により選挙又は推薦が行われたことは認めるが、その総代の選挙手続に違背があり選挙が無効であるという主張は否認する。

(1)申請理由二の(1)の総代選挙選挙規定違反の主張について(以下申請理由の記号に応ずる)

(イ)選挙管理人補助者は必要機関でなく又選挙立会人は各選挙区共割当定員数と立候補者数とが一致する無投票当選となつたので委嘱の必要なく、これをしなかつた。

(ロ)投票用紙の様式は定め、投票用紙は現実に準備した。

(ハ)代理投票及び書面投票の用紙及び封筒は用意した。

(ニ)連記式投票用紙の必要はなかつた。

(ホ)無競争当選の決定の公告並びに当選者氏名の公告は主たる事務所の前に設置した組合の掲示場にした。

(ヘ)総代当選者に対して当選通知を出し当選者全員から当選承諾書をとつた。

(ト)選挙区並びにその定員が債権者主張の通りであつたことは認めるが、割当定員数と立候補者数が一致し全員無投票当選となつたので補充選挙の必要はなかつたのである。組合役員が立候補者の整理や依嘱したことなく、ありとすれば、立候補者なり組合員が自主的にやつたものである。

(2)申請理由二の(2)の第二次選挙不存在の主張について、

債権者主張の組合総会における総代の第二次の選挙のなかつたことは認めるが目黒信用組合の定款は、昭和二十五年五月十四日組合総会において改正せられ、債権者主張の従前の定款第三十六条は、「総代は選挙規程の定めるところにより選挙区の組合員の数に応じて組合員のうちから選挙する」と変更され、総代の選挙には債権者主張の如き総会における第二次の選挙の手続を経るを要しなくなつた。従つてこの定款に基く改正選挙規程には総会における第二次選挙の手続を規定していないので、この選挙を行わずに総代の当選が確定したわけで何等定款に反するところはない。

(3)申請理由二の(3)について、債権者主張の如く百四名の総代が選挙されたこと及び債権者主張の定款第三十六条(債務者主張の改正前の定款)に総代の定員を百人と定めていることは認めるが、これは当時の法律が「百人を下つてはならない」旨を規定していたからであり、一応は百人と定めていたけれども、総代選挙規程は、各選挙区につき、総代は十三人につき一人とし、端数五人を超える場合は、一人を加えるとなつていたために、必ずしも総代は百人というわけにはいかず、多少は超過することになるので、定款に百人とあつても選挙規程により総代の定員は決すべく、実際の総代数は百人を超えて差支へないのである。前記定款の改正に当つても総代の選挙規程は従来のまま存続したものである。従つて債権者主張の総代選挙は、この選挙規程により終始定員数が決定されたのであつて、定款変更により定員百人ということが削除されても、その前後において総代の定員数に変更はなかつたのである。当時の組合員数は、千五百八十八人で、選挙規程よりするときは、総代を百四人選出しては不足の如く見えるが、総代の定員決定は、選挙区に実在する組合員の数により決定すべきものであるからそれにより百四人となつたわけである。

三、申請理由三の事実はすべて否認する。

従つて債務者等は、適法な総代により総代会において選挙されたものであるから適法な役員の資格を有するものである

」と述べ

債権者主張の当選無効に対しては、「債権者松沢幾太郎は、得票数九票であつて無資格者四名の投票により、当選落選には何のえいきようもないものであるから第三者の当落に関し、すでに決定したところと異る主張をすることを許されないのである。債権者主張の当選者のうち最高得票数及び最低得票数を得た者の氏名及び得票数次点者の氏名及び得票数は認める。

」と述べ

疏明として疏乙第一号証の一乃至十七、第二号証の一乃至百四、第三乃至第五号証第六号証の一乃至三、第七乃至第十一号証、第十二号証の一乃至二百五十二第十三、十四号証を提出し、証人石川喜左衛門及び同中島英一の各証言並びに債務者久津四郎本人尋問(第一、二回)の結果を援用し、「疏甲第一号証第四乃至第六号証、第十二第十六号証第二十第二十一号証の成立は認める。爾余の疏甲各号証の成立はしらない」と述べた。

理由

一、申請外目黒信用金庫が中小企業等協同組合法による信用組合であつたが昭和二十八年六月一日組織を変更して信用金庫法による信用金庫になつたものであり債権者が右金庫の組合当時は組合員、金庫になつてからはその会員であり、債務者鏑木太郎、同阿久津四郎、同田中清吉、同須田治、同登坂源太郎、同松沢亀次郎同中村冬三郎及び同板羽梅重郎が、昭和二十八年五月三十一日信用組合当時の総代会において選挙せられた理事であり、うち債務者鏑木太郎は、その後理事長に就任し債務者池田米蔵が昭和二十八年五月二十三日信用組合当時の総代会において前任監事朝海行夫の後任者として推薦されて就任した監事であり、債務者須田喜作同高坂元吉が昭和二十七年五月三十一日信用組合当時の総代会において選任された監事であり、いづれも組織変更後も引続きその地位にあるものであること、並びに、右三回の総代会の総代が昭和二十五年五月二十日の選挙によりその地位についたものであることは当事者間に争がない。

二、まず監事たる債務者等の地位について判断するに、証人渋谷直治の証言によれば、昭和二十七年五月三十一日の総代会において選任された監事須田喜作及び同高坂元吉は、総代会において監事たることの推薦をうけたに止まり、選挙により選任されたものでないことが疏明される。中小企業等協同組合法第三十五条の規定によれば、中小企業等協同組合の監事は、その役員と定められ、役員は、定款の定めるところにより、総会において選挙されるべく、その選挙は、無記名投票にして一人につき一票とされている。しからば、その選任は、選挙によるべきものであつて、選挙を用いない推薦の方法によるをゆるさないものと解するを相当とする。

しかして、組合員の総数が二百人をこえる組合において総代会が設けられた場合には、総代会は、同法第五五条第七項の規定により役員を選挙する権限を有するものと解されるから、右の理は、総代会における役員の選挙についても同じことになるわけ合である。

従つて債務者高坂元吉、同須田喜作、同池田米蔵は、前記法条によつて定められた当時の目黒信用組合定款第二十三条所定の選挙の手続を経て夫々監事に就任したものでないこと明かであるから爾余の判断を待つまでもなく、全員が適法に監事の地位にあるものということができない。

三、理事たる債務者等の地位について判断するに、債権者は、理事たる債務者等を選任した総代は、全員総代たるの資格なく、従つてその総代により総代会において選挙せられた理事は、当然にその資格を得ないと主張するので、先づ総代の資格の有無につき判断する。

定款に定められた総代の定員が百人であること、選挙区並びに各区に割当てられた総代の定員が債権者主張の通りであること昭和二十五年五月二十日施行の総代選挙において、当選者とされた者が百四人であつたこと及び右当選とされた者につき組合総会における第二次選挙の手続がとられていないことは当事者間に争がない。しかるところ、債権者は総会における第二次選挙を欠く総代の選挙はその効力なしと主張し、債務者は、この点につき同月十四日定款の改正があつたから、第二次選挙を行うの必要がないと主張する。

証人渋谷直治(第一回)、同押田孝、同吉沢長太郎、同石川喜左衛門及び同中島英一の各証言、債権者松沢幾太郎及び債務者阿久津四郎の本人訊問の結果、成立に争のない疏甲第一二号証、弁論の趣旨により当裁判所が組合事務所の見取図と認める同第一三号証を綜合して判断すれば、申請外組合は、昭和二五年四月三十日組合事務所に組合総会を招集し、昭和二五年法律第五七号による中小企業等協同組合法の改正に伴う定款第三六条の改正等を目的する会議を開催しようとしたが出席者少く流会となつたので延期して同年五月十四日重ねて総会を開催したが、やはり、出席者少く、到底定款変更の特別決議をなしうる定足数に達しなかつたが、延会では定足数を要しないという者があつたので、そのまま第一号議案昭和二四年度事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、剰余金処分案承認の件の審議に入つたが、議事が紛糾したので同議案の表決をなさず、したがつて、第二号議案及び第三号議案(定款変更の件)の議事に入ることなくして終つたことが疏明される。証人石川喜左衛門同中島英一、債務者阿久津四郎の供述中右認定に反する部分は措信しない。疏乙第三号証及び同第一一号証の記載はともに当裁判所の信証を惹くに足らない。そうであつてみれば、本件総代選挙当時は定款第三六条は依然として第二項を存し総代は、(総代選挙規程の定めるところにより、選挙区ごとにその選挙区の組合員の数に応じて、組合員の互選により選出されたもののうちから、)総会において選挙するものとされていたこととなる。

しかるに、成立に争のない疏乙第一号証の一ないし七によれば、右組合においては右総代選挙の為総会を招集した形跡なく、単に選挙区及びその選挙区の総代定員を定め、定員に相当する立候補の届出があつたとして、立候補者全員につき無投票当選を決定し、定款第三六条第二項は削除されたものとの見解の下に同項による総会における第二次選挙を施行しなかつたことが疏明される。元来右のように、定款の規定が各選挙区毎に選挙したものにつき更に第二次の選挙を要求した所以のものは、昭和二五年法律第五七号による中小企業等協同組合法第五五条改正前にあつては、基本法自体が総代の選挙は総会において行うべきことを規定していたが、単に総会における直接選挙にするときは当選者が地域的に偏在する怖があつたのであらかじめ選挙区を定めて予選を行うことにより総代の公平たる地域的分布を期待したものと察せられる。しかして各選挙区の定員の総数は総代の総定員に合致して定められており、怖らくは、第二次選挙を施行するも、第一次選挙と同一の結果がえられたであろうから、第二次選挙は殆ど無用なるかの観なしとしないけれども、なお第一次選挙を以て法第五五条の規定する総会における選挙に代えることはこれを認めることができないものといわなければならない。けだし、第二次選挙によつて、地区別に行われた第一次選挙の当選者中適当でない者を排除する余地なしとしないからである。果してしからば、五月二十日施行の第一次選挙によつては、法第五五条の規定する総代の選挙を終えたものということをえないわけであるから、第一次選挙の無投票当選者(総代と称する者の全員)は、すべて法律上総代たる地位にあるものということができないのである。

尤も中小企業等協同組合法第五十五条第二項は、昭和二十五年三月三十一日同年法律第五七号の改正によつて総代は、定款の定めるところにより組合員のうちからその住所職業の種類等に応じて公平に選挙されなければならない」と規定され、総代の選挙は、必ずしも「総会において」行われるを要しないこととなつたから、すでにこの改正法が施行されていた当時においては、目黒信用組合定款第三十六条第二項の規定は、改正規定の明文にていしよくし、当然失効したのではないかとの疑がないことはないが、右改正規定の下にあつても、定款を以て前記定款第三六条第二項のような定ができないわけではないから、右定款の定は右改正法律の施行により当然失効したものというをえないのである。

然らば爾余の点につき判断するまでもなく、申請外目黒信用組合の当時の総代は、全員法律上総代たる地位にあつたものといえないことになる結果債務者等は結局法律上総代の地位にない者によつて理事に選挙されたことになり、とうてい総代会で選挙された理事とはいえない。

四、以上の如く債務者等に理事又は監事たる資格のないことが疏明される以上被告等の理事又は監事たる地位を争う本案訴訟の確定にいたるまで(但し、本案確定前その地位を退いたときは、後任者の選挙されるまで)は、理事兼理事長、理事又は監事としての職務を執行せしめることは、金庫に不測の損害を生ぜしめる虞のあることはみやすき道理であり、且この点は相当の保証によつてその疏明を補充し得るものである。

五、よつて債権者が、右債務者等に対し共同して、保証として金三百万円を供託することを条件として、本案判決の確定に至るまで(但し本案判決確定前その地位を退いた場合は後任者が選挙されるまで、同人等の理事兼理事長、理事又は監事としての職務の執行を夫々停止し、その間裁判所が選任した職務代行者をして夫々その職務を代行せしめることとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して、主文の通り判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 小川善吉

裁判官 岡田辰雄

裁判官 西村法

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